2024年1月に日本で公開されて以来、香港発のアクション大作『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の熱狂的な勢いは衰えることを知らない。原作小説『九龍城砦 I 囲城』の著者余兒氏によるサイン会には、定員の10倍を超える応募が殺到。2分で完売したトークイベントの参加権や、関連グッズは予想をはるかに上回る「想定の30倍」の売れ行きを記録し、ファンの総称「寨民(さいみん)」という新語まで生まれるほどムーブメントは加速している。
この現象が生まれた背景には、日本の映画界全体が洋画離れを迎える中、同作が異例のヒットを達成した理由が隠されている。2024年香港での公開時には広東語映画史上最高の観客動員を記録し、日本でも公開から4ヵ月で興行収入5億円を突破。これは、単なる映画ヒットを超えた、“熱狂的なファンベース”が支える現象だ。
物語は1980年代の香港、無法地帯として名高い「九龍城砦」を舞台に、密入国した青年・陳洛軍が黒社会の抗争に巻き込まれ、友情と復讐のドラマを繰り広げる。豪華キャスト陣とダイナミックなワイヤーアクションが映える映画は、『第43回香港電影金像奨』で最優秀作品賞を含む9冠を獲得し、その熱量は日本にも波及した。
特筆すべきは“推し活”ファンの存在だ。早川書房が小説の日本語訳を発表した際には、SNSで123万の表示と1万件を超える「いいね」が集中、「長生きする理由ができた」「早川さん一生ついてく」など熱烈な声が相次ぎ、単なるリリース告知が社会現象となった。この熱気は、小説発売前に販売を始めた九龍城砦モチーフのTシャツの通常の30倍もの注文を生み、生産体制の拡大を余儀なくさせた。
さらに、原作者の余兒氏は小学生時代から日本のマンガ文化に親しみ、『北斗の拳』『ONE PIECE』『ジョジョの奇妙な冒険』に影響を受けたと明かしている。作品には少年漫画的な友情や熱血、絆の要素が強く、30代から50代の女性ファンを中心に共感を呼び、「寨民」の約9割はこの層だという。この特徴は近年の人気作品と同様の熱狂を創出しており、日本のファン心理に深く刺さる要因となっている。
また、作品舞台の九龍城砦は1994年に解体されており、かつての巨大スラムの実像はほとんど知られていなかった。余兒氏が幼少期に感じた謎めいた地域の魅力が、綿密なリサーチを経てアクション作品の理想舞台となったことも大きな魅力のひとつ。映画のセットはこの地を緻密に再現し、展示イベントには日本からも多くのファンが訪れるほどだ。
ファンたちは叉焼飯の食べ歩きや広東語学習、そしてファンアートの創作など多岐にわたる“推し活”を展開。こうした活動こそが、同作を単なる映画以上の社会的現象へと押し上げている。出版社の担当は「単なるおすすめではなく、“推し”であることが、これほどまでの盛り上がりを生んだ」と語る。
今後は本国で刊行済みの三部作に加え、外伝の展開や、続編映画の公開も控えている。早川書房は日本独自のコミックス化やアニメ化も検討中であり、IPビジネスの拡大に伴い、一層のファン熱狂が期待されている。この熱気の波及がどこまで続くのか、エンターテインメント業界の注目が集まっている。